向山裕は1984年兵庫県出身。2004年大阪美術専門学校絵画専攻卒業後、翌年に当画廊にて個展を開催。120号の巨大なキャンバスに描かれた実際には指先ほどの小さな熱帯魚や、頭と尾に分かれたウナギなどをリアルかつ細密に描き注目を集めました。その後、韓国での個展やグループ展、「高島屋美術水族館」、「美の予感」(共に高島屋各店へ巡回)に出品。2020年に新宿高島屋にて開催された個展では、その卓越した技術によって描かれた作品が多くの反響を呼びました。
向山の作品には、カイダコやゾウリエビなど珍しい海洋生物が登場します。向山は気になった生物を入念に調べ、入手できるものは実際に飼育し、体長3mmほどのウミホタルなどは顕微鏡で細部まで観察し描いていきます。それらは標本のように写実的に描かれますが、どこか空虚さや悲哀を感じさせ、時に水中に差し込む光によって神々しささえも感じられます。また、絵画の他に米粒やメンフクロウの上半身を巨大な立体にした作品や、闇夜を飛ぶモモンガの木彫など、新たな領域へと広がりを見せています。
これまで鳥類や昆虫、海景なども描いてきた向山ですが、その興味は自然界と生命の循環、殆どが短命もしくは一瞬の内に繰り返される美しくも儚い現象の不可思議さにあるようです。栄養源である臍嚢が光り輝く稚魚、今まさに羽化しようとする蝉、高空から墜落する鳥、緊張感あふれる作品からはそれらの生命の有り様を尊重する姿勢が感じられます。
7年ぶりとなる今回の個展では、新作を中心に油彩約15点を発表いたします。深い洞察力に基づいたインパクトのある作品を発表してきた向山の新作展をぜひお見逃しなくご高覧ください。
〈作家コメント〉
大陸の内奥部、見渡すかぎり起伏の乏しい荒涼とした大地が広がっている。地面はひび割れ、かさついたイネ科植物がまばらに覆っているほか、ひねこびた灌木が多少あるに過ぎない。
オカメインコの大きな群れがやってきて、ゆるやかに旋回した後、一斉に降下した。わずかな植物の実を探し出しては、湾曲したくちばしで器用に割り中身を食べる。草影にわずかに残った茶色い水たまりに口をつけて、あらそって水を飲む。皆が渇きに悩んでいる。
地平線のかなたで、鈍色の雲がにわかに湧き出して渦巻き、みるみる濃厚な暗がりをつくっていく。闇のあちこちがまたたくように発光し、遠雷のひびきが小さく、低く、大気を震わせる。オカメらは仕事を中断し、首を伸ばして、次第ににぎやかになりつつある地平線を見つめる。「どうん」と地を揺るがすような雷鳴がとどろき渡ったのを合図に、わっと一斉に飛び立ち、暗雲の方角へ飛行をはじめた。オカメら、水をもとめている。
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〈前回の展覧会〉
画廊からの発言 新世代への視点2018
向山裕展 「捕食者・水たまり」
MUKOYAMA Yutaka Predator・Puddle
2018.7.23(月)‐8.4(土)
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